君を抱き締める必要がない。
なんていったって、君は、僕以上に凛々しくシャンと真っ直ぐに立っている。まるで上から吊るされているようだ。
そんな風に君は落ち込むことのないように、肩と頭に糸を縫い付けている。その意思が上にあるから、君はそれを信じて、信仰して、そして盲目になるのだ。そうやって、見えないようにしているのだろう。見開いた眼はとても鋭いものだ。だけど、一直線にしか向かれてない愚かのようにとも受け止められる。強ければ強いほど、弱いことを受け止められなくなって、君は今、自分自身を勝ち誇った眼で見てないか。弱者を愚かだと決めつけていないか。
逃げ道を用意するのは、君のプライドが許さない。君は輝かしいものであるだろう。みんなの憧れになるだろう。小説や漫画の英雄になりきるのだろう。そして君の弱さは憎いものになっているのだろう。
僕は君のことを本当に愚かだと思うよ。特に融通の利かない所が損をしている。もっと上手く自分を使えばいいのに、君は英雄のふりをするから損ばかりしている。
「君のことを僕は皆と違って、特別だなんて思わないよ。だからいい気になるなよ。君程度、全国にはごろごろいるんだからさ」
僕がそういうと、君は簡単に挑発に乗って怒りを表した。
それはさ、君が僕のことを見下しているからだろう。僕程度にそんなことを言われて、高くなったプライドに傷がついた。
「ねぇ、君はどうなりたいんだよ」
「知るか」
考えたくもない内容を突き放す。脳に入れ込まないようにしている。考え始めたら、分からなくなって、悩んで、それが弱さに変わるのを恐れている。
君は一定の正しさでいたいのだろう。
「僕は君が嫌いだ。それは変わることはない。だから期待はしていない。けれど、憎くはない。君に対して怒りは沸かない。だから、君がもし君自身で思う君じゃなくなった時に、僕は君を否定しない」
天から吊るされた糸が切れた時、僕は君を抱き締めないけれど、肩を貸してやるよ。君はそれも嫌かもしれないけれど、僕なんか君の背の高さに合わせてしゃがんでやっているんだ。
それぐらい、我慢したっていいだろう?