ついておいで

 君は黙って僕の後ろについてくればいい。僕が手をひいてあげるから、君は素直に手を差し出せばいい。迷いや不安を君自身で解消してからだと、不満を言いそうだけど、そんなこと考えている余裕はない。
 君が君自身を認めるまでを待っていたら、僕は置いていかれるに決まっている。君は歩き出していくはずだ。こんな僕なんて、簡単に切り捨ててしまいそうだ。君の歩くペースに僕は立ち止って見送ってしまうのだろう。走って追いかけることすらできない弱虫だ。遠くに消えてしまう背中と自己嫌悪が僕を包む。立ち尽くして、考える。さて、僕とは。
 なら、僕が先導して一緒に行った方がいいよ。僕なら君と違って不器用じゃないから、向かいながら考えることができるのだし、それに君を僕ならば置いていかない。
 歩くペースも考慮しながら進んであげる。君が立ち止りたかったら、僕も立ち止ってあげる。それで君が悔しい顔をしても、見ないふりもしてあげるし、望むなら抱きしめることだって出来る。君の意思を掬ってあげる。零れ落ちそうになる前に、僕が飲んでしまうから。
 どこにいくのかって? 行き先が気になるよね。いくら進んだって、終わりを知らなければ不安は常に胸中にあることになる。進めば進むほどに広がってしまう。
 僕は君にこれを伝えた方がいいのだろうか。
 君は僕と一緒にいることで失ったものを、僕を拒絶することにより取り戻しに向かうのだろうか。
 繋いだ手はあっさりと解かれるのかな。僕はそれを伝える時にはこんな時だけ、緩やかに握って君の判断を確かめるよ。ここまで連れまわした結果の君の判断だ、僕は文句が言えない。
 君がそれでも僕と一緒に向かおうとするならば君の隣に立とう。君にも当然、行き先を決める権利はあるからね。
 君が足早に進もうとしたら、文句を言いながらでもついていってあげる。どこにいこうかと、喧嘩をするのも良い。繋いだ手だけを離さなければどうだっていい。

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