simple

 面倒なやつなのに、手放せない。
 なにを期待しているのだか、影山を常に目下に置こうとする。それも不器用に。素直じゃないところが、可愛いだなんて言えたもんじゃない。傍に寄せたと思えば、罵倒ばかり寄こして、影山を拗ねさせることに励んでいる。
 それに耐えかねつ離れようとすると「どこにいくの?」と、罵倒を全てやめ静かに言う。今までの言葉がほとんど余計だったのを思い知る。大事な言葉がその罵倒の中にあるならば、余計なものに包まず、今のように言えばいいのにと思った。だけど、彼がそう静かに言う時は、物寂しげで、些細なことでも傷がつきそうな弱い生き物に見えた。
 影山は足を止める。今まで、月島が自分をどれほど傷つけようとしたことだろう。と、思い返す。
 けれど、今、ここで彼から遠ざかることが、何より酷いことの気がした。言葉が、届かなくなることのほうが。
 影山は、傍に戻った。月島は弱い生き物のままだった。
「そんな顔するんじゃねーよ」
「君のせいだ」
「そうか。俺のせいになるんだな」
「ああ」
 誤魔化しのない言葉で、返事をした。弱い月島は、とてもシンプルだった。だから、影山にも理解が出来た。
 彼は、自分を必要としている、と。
 

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