眼鏡

 レンズが割れた。大事に取り扱ってるものほど、ふとした瞬間に一瞬で壊れる気がする。壊した瞬間は呆気にとられて呆然とする。僕は壊れた眼鏡を見て一時止まった。そして、じわじわと思い浮かぶ。替えの場所とか、これはもう直らないなとか。そして、一通りに考えた後、やっとちゃんと認識する。これはもう壊れてしまったものだと。
 そんな風に、君が去った後も僕は立ち尽くしていた。
 同じように考える。僕がした事、君がした事、何がいけなかったか、どうすればよかったか。これはもう直らないのだろうか。
 君がいなくなって、時間が立たなければ訪れない実感。それは僕が何をしたわけでもなくて、突然のことでまだ呆気にとられた状態でいるから。いけなかったなど、微塵も思ってないから。しいていえば、そんな危ない状況が起こり得ることを予想してなかった危機感の無さ。常に把握しておかなければいけなかったのだろうか。
 大事にしているのに。君も分かっていた。でも、大事って何なんだろうか。君を守ることか? 君の意思を尊重することか?
 僕は僕なりに君を認めていた。けれど、君は最後に「お前はお前であろうとして、俺は俺で、だから駄目なんだ」と言った。
 一体どういうことだ。
 春風が吹きわたる公園で僕は立ち尽くしている。風が強い。目の中にゴミが入りそうだ。次々と浮かぶ考えを風は騒ぎ立てさせる。
 朝でも夜でもない中途半端な時間に子供が集まり遊んでいる。彼らはその時間でしか、自分の時間を友達と共有できない。親の支配下で在り続けないと生きていけない。
 僕は君が好きだ。だけど、僕は僕である。僕の愛し方が僕を含んだ愛し方だったと君は言いたいのか。
 君は弱さをさらけ出して去った。君は、君の嫌いな弱さを最後にぶつけた。
 理解じゃない。言葉だけじゃない。本当の意味はそんなものだけじゃない。時間が経って、気付く頃には僕は僕にしかなれない。僕が演じている弱さをさらけ出すことが嫌いな僕に。
 走り出した。何も考えるのは止めた。僕は君を追いかけた。そして言わないといけない、言う言葉も考えて無いのに。考えずに浮かんだものを言わなければいけない。

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