曲がる

 もう、これ以上にない位、彼を愛すことが出来たら、どれだけ幸せなのだろうか。そうなれば、僕は真っ直ぐと彼を見ることができるのだろうか。出来るのだろう。不安と迷いがなければ、何だってできるはずだ。それは、自信に溢れた姿といえるのだろう。
 その姿で在れば、僕は遠まわしではなく、彼に一言で「好きだ」と言うことが出来る。彼の理解できる範囲で表現出来る。彼の逃げ道を完全に塞いで、僕の気持ちを伝えるのだと思う。
 今の僕は、彼が分からないことを、いいこととしている。それは僕の気持ちが曲がりくねっているからだ。現に、彼に「好きだ」ということを、未だに頭の中じゃ認めずにいる。「好きだ」、ではなく、「惹かれている」、それならば譲って認めてやってもいい。
 僕は、僕の逃げ道を作っている。もし、彼に「嫌い」なんて言われても、傷つかないように。
曲がりくねった道は、分かれ道もあって、彼の真っ直ぐな言葉は最後までたどり着くまでにどこかに消えていく。彼が沢山その言葉を言っても、僕は相当曲がりくねっているので、届かない。それどころか、馬鹿にしたように笑ってしまうのだ。
 一言で表したら、君は一言で返すのだろう。「好きだ」、という一言には、沢山の意味が含まれているのだけど、それをきっと分かりはしないだろう。分かりやしないから、君は、「嫌い」という言葉を言うかもしれない。僕も分からない。彼のシンプルな言葉には、どれだけのことが含まれているか。だけど、曲がりくねってなければ、酷く傷ついてしまうことは分かる。その時はもう二度と、彼を、直視できないような気がするんだ。

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