恋人たちのクリスマス

――これから、どうしようか。
 彼はそこに棒みたいに立っている。いつもみたいにそっけない顔をしている。月島は影山に眉間の皺のことをいつも注意するが、自分だって、そっけない顔を常にしているじゃないか。しかも、こんな時にでも、だ。
「どうしようかって言われても……」
 帰る、しか選択は残されてない。だけど、繁華街が夜になり、一斉に煌びやかさを増した。イルミネーションが現実の世界の時間を忘れされるように、いつまでも点灯し続けている。サンタがずっと笑っている。何時になっても笑っているのだろう。その中で、この世界から抜け出す一言を言うのに臆してしまう。簡単に、抜けだすことが出来る一言なのだから。ひっくり返すような暗さに戻るにも、勇気が必要だ。
「なぁ、お前はどうしたいんだよ?」
「君に任せる」
「なんだよ、それ。俺は、もうここに用事はないし……」
「君の意見が聞きたいんだ。僕とはもう居たくない? 帰る?」月島はそっけない顔に皺を寄せて言った。いつもの切り裂くような言葉じゃなくて、抜けていくようだった。傷ついているのか? 影山は分からなかった。
「一緒には居てぇけど……」 影山は内心が読み取れず、参った。
「僕達、友達じゃないんだよ」月島は言った。「君は今日……僕と居てそんな気持ちで見てなかったようだけど、僕はずっと恋人として居た。腕も組んでないし、手も繋いでいないけど、僕はずっと、そういう気持ちで居た」
 恋人達がすれ違って行く。手を繋いで、腕を組んで、体温を共有している。影山達は、互いの体温を共有できない。 こんな所でできない。サンタもきっと顔を歪めてしまう。肩を寄せて、わずかの距離の体温で満足するしかないのだ。それはトモダチという関係にも酷く似ている。
「僕の家に来る?」
 友達と勘違いしないことをするから。そう言われている気がした。覚悟を問われている。
「行く」
 サンタや恋人達に背を向ける。繁華街から抜け、暗くなっていく。後ろから嘲笑われたって後悔しない、とつま先がちゃんと前を向いていた。そっと手を繋いだ。暗やみの中じゃ、笑われたって分かりやしない。体温だけが正しい。

 

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