彼と居る為に

 にこやかに笑い合う日々が似合わない。可笑しいぐらいに、僕達は喧嘩を続けているのだろう。
 世間の些細な、些細な出来事に傷ついて、だけど僕達は何にもない顔をするのが上手だったから、それをうまく誤魔化して、お互いがいる時に傷口を開いて涙を流すんだ。
 それは言葉で、とめどなく溢れて、汚い言葉が酷く悲しい意味を持つ。僕達は悲しいとは言えない。だから、汚い言葉を吐くんだ。吐いて、吐いて、出すものがなくなると、酸っぱい胃液が出るように、本音が僅かなのに舌を占領するほどの味を持って、(つまりは僕からしたら、伝えたいことだけど、伝えたく無いようなジレンマなもの)飛び出す。
「……君なしで……生きたくない」
 彼はそれを聞くと言葉を止める。ただどうすることもなく、顔を顰める。胸を抑えて、痛むようだ。
 僕のその言葉が、彼の胸を痛めつけたのだろうか。彼の傷は今の僕の傷とどちらが深いのだろう。
 僕達は痛みを患っている。痛みをなすりつけている。最後の言葉は巧みな手段だということを彼は知らない。酸っぱい胃液だなんて、僕じゃないと分からない。でも、本当にそこに僕はいる。それは、嘘じゃない。
 僕達は常に泣いている。言葉が飛び交っている。どうせなら、一粒でもいい、本当に泣けたのなら、彼がそれごと受け止めてくれるなら、僕は言葉の涙を流すのを止めることが出来るはずなのに。

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