彼の熱が伝わる。触れ合ってはいないけれど、温かみを感じた。
触れてみようと思った。彼は気付かない。
彼は隣でうとうとと眠りにつきそうで、瞳を閉じかけていた。風呂上がりの熱と匂いを感じる。練習後の疲労が、心地よく体に回っているのだろう。花の匂いが彼をつくっていた。
テレビに映った映像はBGMと化し、彼の眠りを更におびやかす。優しく映る動物の映像と老人の解説はとてもゆっくりで、どこか安心感がある。
月島は影山を見た。油断しているな、と感じられる。
今なら触れることができるかもしれない。
月島は彼の手の位置を確認する。無防備に月島のすぐ傍に置かれていた。
指先を観察する。触れたいけれど、どうもその一歩が中々踏み出せず、鼓動ばかりが早くなっていった。
そうしている内に、彼は眠気に負けて、ソファーに上半身を倒れるように吸い込まれた。
指先が離れる。彼は自分の片耳を両手で支えて、頭全体の重さを任せた。
月島は彼の手を諦めた。
惜しかったなと、少し残念に思う。
影山は瞳を閉じている。月島がいることもおかまいなしに、夢の世界に導かれるままだ。
どんな夢をみたいのだろうか。夢をみることを望んでいるのだろうか。
月島は影山に毛布を一枚掛けてやった。彼はそれを自ら包むように握った。
前髪が揺れる。誘惑をしているように。
月島は触れた。花の匂いに酔ってしまったみたいだ。
さらさらとしているが、がっしりとしている毛並みだった。
下に沿っていく。彼の頬だ。とてもシャープで、あまり頬の肉は無い。そして、また下へ。首だ。彼の喉仏を優しく触ってみた。
名残惜しく、彼の肩を辿って。影山から触れるのを止めた。
彼の寝息は聞こえない。起きているのだろうか。
そんなことよかった。どちらでもよかった。
触れられたことが、今の月島を満たしていた。
影山の夢が優しい夢であればいい。
テレビの中の人間は笑っていた。動物に心満たされるように。
月島も同じだった。