そこに君はいる。凛として、僕の椅子に座っている。それがとても似合わない。僕の椅子に君がじっと座っていることに違和感を覚える。その椅子はずっとこの部屋にあったものだけど、君はいつもそれには座らなかったんだ。床とか、ベッドの上とか、わざと避けているみたいに。お前がすわるんだろう? と言わんばかりにそこを開けてくれている。だから、僕はそこに座ってすこしだけ、ほんの少しだけ高い位置から君を見ていた。
普段だって、この身長だから僕は君を見降ろしている。けれどここにいるリラックスをしているような、隙がある君を見ることができるのはこの椅子のおかげだった。
僕はベッドで横になっていた。
椅子に座って、高い位置から見ている君を少し盗み見ては逸らす。君は今どんな気持ちでそこに座っている? いつもの僕と重ねているのだろうか。僕から君を見ている光景を君は感じたくてそこに座ったのだろうか。
僕から見える影山の横側は、とても遠く感じてしまう。僕の身長が君より小さければ、今よりも君を遠く感じてしまうのだろう。君は綺麗だけど、そのせいで人が持っているざわざわとした、混ざりまくっているものの中で浮いてしまうんだ。
僕はだらんとしている体の内側に熱いものがあることに気付いていた。それを主張する反面、僕はそれをかくそうと気が抜けているふりをしていたのだった。とてもまぬけな気がしたんだ。
君はなんにもするわけでもなく、机を眺めていた。何をしようかと考えているのだろうと思った。漫画も読みふけ、ゲームもした。他に何があるのだろうと考えていた。残されている最後の一つ以外を探すように。
僕が言葉を掛けなかったならば、君はどうするのだろうか。僕は考えてみる。落ちかけた日の頃合いを見て帰ると言いだすのだろうか。
そもそも何故僕達はここに二人でいるのだろうか。ゲームがしたかったから? 漫画が読みたかったから? だから君はここにきたのか。そんなことは無いだろうな、と思う。
僕達はそれをするよりももっと必死で、夢中になることを知ってしまっていた。それはゲームよりも漫画よりもリアルでそして終わりが見えないようなことだった。
君は顔をこちらに向けた。僕はそれに気付いていても、目を合わせることをしなかった。
僕は君からきなよ、と言葉には出さなくともそれが分かるように意図として出していた。
君がそこから動いて、僕の傍に寄るんだ。
これはいつも僕がしていることだった。
影山は椅子から立ち上がり、僕の傍にくる。僕はそれでも反応しない。ずるい。君はそうやって僕を求めて、僕のせいにしようとしている。
そして影山はしゃがんだ。僕の頭の近くで、ベッドの鼓動を聞くように耳を傾けている。
「何か音が聞こえる?」と僕は聞いた。
「いいや、何も聞こえねぇ」と影山は答える。
「そう」と終わりを告げる。
僕は片手で影山の髪を触れるか触れないかの際で撫でた。覆うように。
君はその手を掴んだ。それにも力が入っているように感じなかった。
僕達は見つめ合う。そしてキスをした。
その頃にはもうお互い一つのことしか頭に浮かんでない。
君は何を考えてる? そんなことを今なら聞かなくていいのを、僕は心底安心している。きっと多分、影山も。