「俺が言ったんです。いつもやっているから、許可はいらないと」
 緑間は嘘などつけない癖に、当たり前にやったのだと、自ら罪を被った。
 高尾からすると、それはつまらないことでしかない。
 わざわざ自分が公言する必要など無いことだ。
 しかし緑間はこういう時に、気付かれないように嘘を付くのが上手かった。高尾からするとすぐに違うと分かる程度だが。
「ねぇ、さっき何で嘘ついたの?」
 周りの部員が緑間に対し猛批判した時、高尾だけは口を挟まなかった。余計なお世話だと思ったからだ。
 だが意図が分からない。
 部員達がそそくさと帰った後に、高尾は疑問を口に出した。
「嘘だと思ったのか?」
「いいから、そういうの。俺、わかんだから」
 前振りを聞きたいわけではない。高尾は少しだけ、力を込めて言った。
 だが緑間は口を開こうとしない。
「真ちゃんさあー。お前って本当に不器用だな」
「俺は別にいい。これ以上何を思われようが一緒だからな」
「そういう所がほんと馬鹿だよ」
「お前に言われたくない」
 分かっている。本当は辛いことぐらい。
 でも、辛いんだろうと直球で聞いたら、またやせ我慢をするのだろう?
「真ちゃんが素直にやっている時って、バスケぐらいだもんな」
 高尾の前ですら、そう素直になってはくれない。
 少し顔を歪ませてしまった。ああ、自分らしくない。
「お前にそんな顔をさせてしまうのも、俺のせいか?」
 不意打ちに言われた言葉に高尾は戸惑う。
 違うわけではないけれど、でもそれは誰かのせいとかではない。きっと、
「俺のせいだよ、真ちゃん」
 自分がこんなにも不甲斐ないせいだ。
 だから余計に傷つく必要なんてないはずなのに。
「真ちゃんだけが傷つく必要なんてないんだぜ?」
「俺だけではない。きっと、痛んでいるだろう。あいつらも」
「そんなリスク、全然痛みになんかなってないと思うけどな」
 本当に無駄なことだ。高尾にとってはだが。
「まぁ、いいわ。俺は相棒がすることに口はださねぇ。お前がいいと思うんだったら、それでいいんじゃねぇの?」
「ああ」
 そういったものの、気に食わなかったが強気ぶってそう言ってしまった。
「俺だったら無駄に傷つくことなんかしねぇのに」
「お前だったらだろう?だが、俺はお前にそんな顔させてしまう為に、そうしたわけではないのだよ」
 歪んでいる表情を消せるほど余裕が無かった。緑間が耐えているというのに、自分は。
「もう真ちゃん格好良すぎ、俺、彼氏の座とられちゃうかも」
「俺はお前みたいに人の気持ちを察することができないから、裏で何を言われようと変わらない。でもお前は気にし過ぎるのだよ」
「本当鈍感だな。俺は真ちゃんのことでしかそうなんねぇよ、馬鹿」
 冷え切った緑間の体を抱きしめる。心まで、冷え切ってしまってはないのだろうか。
 言ってしまえばいい。
 だがそんな本音を口にしたって、馬鹿めと言われるだけでどうにもならないことぐらい分かってる。
 だから自分が緑間の気持ちを察しないとどうする。
「真ちゃん、本当さ、無駄に傷つく必要なんかないんだぜ?」
「分かっているさ」
 少しでも緑間の痛みが消えればいい。この熱は届いているのだろうか?

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