視線

馬鹿みたいに素直に生きている真ちゃんが好きだ。
 この嘘つきだらけの世界に、こんな素直に生きている人間もいるんだって知った。
 真ちゃんが一人で練習している時、俺はそっと気付かれないように端から見ていた。
 その集中している瞳に俺は一人にやりと笑ってしまった。
 本当、普段あれだけ人を見下している癖に自分だって練習してるじゃないかって。
 何個も何個もボールを投げる。全て真剣で、適当になんか一つもやってない。
 俺は声を掛けるつもりだったが、気付くと、ボールがコートに沢山散らばっていた。
 にやけていた先ほどの俺の顔も知らない内に、真剣になっていて、俺は真ちゃんの虜になっていた。
 真ちゃんが手元にあったボールを全て投げ終え、落ちているボールを拾い始めた時、俺は真ちゃんの傍にやっと寄った。
「お疲れ」
 いつも通りの笑顔で挨拶すると、真ちゃんは一度顔を見ただけで俺の存在を無視する。
「沢山、投げてたな。それも全部入ってたし、練習なんかしなくていーんじゃねえの?」
「入ることは当たり前に決まっている」
「シュートが入らない真ちゃんは当たり前じゃない。そうなの?」
 意地悪っぽく言う。
「そうだ」
「ハハ」
「何が面白い」
「馬鹿にしてるわけじゃねーよ。いいなって思っただけ。俺もそんなに真っ直ぐ生きてみてーわ」
 真ちゃんは不思議そうな顔で聞く。
「何故、お前だけは俺をそんなに特別視する?それもキセキとしてではなくだ」
「んー?」
「大概の人間は俺をキセキとしてしか扱わない」
「そんな特別としてなんか、俺は見たくねーなー」
「なら、どんな目で見ているんだ?」
「好きな子としてみてんの」
 そう言い放つと、真ちゃんは固まった。
「……よく恥ずかしげもなく言えるものだ」
「じゃあ、チューしてい?それ我慢してるから言ったんだけど」
「高尾」
「ん?」
 真ちゃんは不意打ちに俺の唇に短いキスをした。
「え、これって?」
 動揺している俺をしり目に、真ちゃんはボールを淡々と拾う。
「言葉が言えないから、やってやっただけだ」
「難易度そっちの方が高いよ」
「そ……そうなのか」
 顔を真っ赤にしている真ちゃんを後ろから、ぎゅーっと抱きしめる。
「可愛いな」
「お前の目はおかしいのだよ」
「いや、おかしくねーよ。ほんと。俺がそー言ってんだから認めなさい」
「そうか、複雑だ」
 何が複雑だよって笑って、肩に手を乗せる。
 そして、そのまま俺は今度は自分からキスをした。

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