覚悟

「今日は逃げねーの?」
 高尾は意地悪く笑う。差し出される手に反応するが、緑間はそこから動こうとはしない。
 その手はゆっくりと服の中に侵入し、猫でも撫でるかのうように横腹を撫でた。
 体が反応して、少し震えた。
 座っているベッドに寝かされキスをする。
 ここにいる時点でもう逃げる気など起こしていないのことに、高尾は分かっているはずだろう。
 それでもしつこく聞いてくるのは土壇場で拒否されるのが怖いのだろうか。
「逃げてもいーんだぜ?」
 そのような言い方をするのはいつもの高尾らしくない。
 いつもこの行為を始めようとすると、緑間は体を震わせる。
だからやけに今日は大人しいと手を出しにくいにのか、なかなか続きをしようとはしなかった。
 高尾が上に被さっても、今まではキスだけだったのだ。
 震える緑間を赤子をあやす様にキスの雨をふらせ、それで満足などしていないはずなのに、満足をしたような顔をする。
「今日は逃げないのだよ。震えたりもしない」
「ハハ。どうしたの?ほーんと真ちゃんさあ、やけに素直で俺怖いんだけど」
「本当に怖がっていることはそれか?」
 そう言うと高尾の手が止まった。
「じゃあさ、真ちゃんはなんだと思う?」
「俺に手を出すことに怯えているのではないか?」
 緑間は起き上がり、高尾を抱きしめた。
 胸の鼓動が早く波打っているのがよく分かる。
「確信などないが、そんな気がするのだよ」
「もし俺がそうだったとしたらさ、どうする?」
「俺もだ、高尾」
 二人の鼓動は一つのように同じ速さで脈打っていた。
 緑間は不安げな顔を強い眼差しに変え、高尾を見つめた。
 高尾も覚悟を決めたように、緑間をベッドに寝かせた。
「後には引けないぜ?」
「ああ」
 するりと肩に手を絡ませた。

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