意味

 愛なんて、子供の自分達が語るものではない。
まだ、未熟な癖に、知っている単語をただ並べて造っている癖に、意味などまだ分かってないはずなのに。
大人ぶって自分達はあたかも知っているようなフリをしていた。
現実など、それさえも自分の思った通りになるのだと、いつかは幸せになるのだと、それが当たり前なのだと、ドラマや漫画のような知識で、愚かなことを自覚できなかった。
子供だから。
その一言で全てどうせ丸められるのだろうけど。
「俺は行くのだよ」
「うん」
 体を何度も合してもお互いの考えていることを全て知ることなどできない。
 知りたいから、何度も体を合せるというのに。
「真ちゃんがいなくなったら、寂しくなるなー」
 ベッドの中で、行為を終わらし、向き合いながら高尾は緑間の眼鏡を外す。
「どう?何も見えない?」
「ああ」
「そんなになんだ」
「高尾、眼鏡を返せ」
「えー。なんで?今はいらないでしょ?」
「いる。お前の顔が見えない」
「どうせ、眼鏡付けても薄暗いんだからあんま見えないって。それよりさ。やっぱ、行くんだ」
 高尾の問いに少し詰まらせながらも、緑間は答えた。本音ではなかったけれど。
「……行くと言っただろう」
「やっぱ曲げないねー、真ちゃんは」
「そういう、お前もなかなか頑固だぞ」
 そうかな?と高尾は笑う。
 麻痺していたのかもしれない。
悪いことなど全く思わなかったわけではない。けれども、悪いことではないと、自分達は信じていた。
 浅はかだが。
 そう、麻痺していたのだ。だから、気付かなかった。
「いや、いいんだよ。多分、真ちゃんに考え方が今は合ってると思うよ。離れたら安心するよね」
 唇を合せただけで、もう普通ではなくなるのらしい。
「ね。会いにいくから。彼氏、つくるなよ。俺だけの真ちゃんだからな」
「ああ、だから」
 緑間は高尾の涙を手で拾った。
「泣くなよ。俺の彼氏なのだろう?」
「見えてないと思ったんだけどな…」
 高尾は緑間に覆い被さる。
「真ちゃん、俺のこと見える?」
「見えるさ。みっともない顔している」
「でもね、真ちゃん。真ちゃんだって、同じ顔してたの気付いてた?」
 高尾は緑間に軽くキスをする。
「好き、愛してる」
 意味も重要さもわからない癖に。
「俺もだ」
 ただ、ただ、伝えたかった。

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