青峰君は言葉をあまり知らないようだ。
だから僕は青峰君の発する一つ一つの、同じだけど違う意味の言葉を理解しなければならない。
「なぁ、テツ」
ほら、これだって青峰君にとっては一つの言葉。名前を呼んでいるだけに見えるけれど、意味は必ずあって目がそれを示している。
まるで動物のようで、僕は青峰君の飼い主みたいだ。
少しばかり寂しい顔をしている青峰君の頭を撫でてやると、青峰君は僕を思い切り抱きしめた。
コートの奥のドアのからは、少しずつ落ちてきている夕陽が見える。オレンジ色の光が僕達に差し込んでいた。
「どうしたんですか?」
力の加減を分からない青峰くんは僕が少しばかり出した痛みを堪えている声に反応し、肩の力を緩めた。
「俺は変わっていってるのか?」
自分のことが分からなくなって、青峰君がずっと自分自身を探していたことを僕は知っていた。
でも青峰君にはバスケが必ず傍にある。
自分自身を探すことと同時にバスケも一緒に連れていく。
理解しようと思う反面、バスケの才能のせいでかけ離れていっている。
でも、僕には分からない。
バスケのせいで自分自身を理解できないなんて、まるでバスケがいけないだなんて、そんなことを思いたくない。
僕も青峰君もバスケが好きだ。
それは紛れもない事実だ。
「変わってなどいません」
僕は嘘をついた。
だけどそう言わなければ、青峰君は自分を責めてしまいそうだった。
「そうか。有難うなテツ」
それはどういうことなんだろう。
青峰君は僕を離すと背を向けて歩き出した。
僕は青峰君の背中を小走りで追いかけた。
「次の試合も勝てればいいですね」
「ああ」
その返事に力などなかった。
僕は分かってなかったんだ。
その有難うの意味を。
変わってしまったのは僕のせいだ。
それだけは分かった。
そして青峰君はついに言葉をほとんど喋らなくなってしまった。
バスケで僕を必要しなくなった。
そして悲しみの全てを消そうとするみたいに、青峰君は僕を求めてくるようになる。
僕は辛くて、青峰君が流さない変わりに涙を流した。
生理的な涙でもあったし、本当の意味での涙でもあった。
でも僕は嫌がったりなどしなかった。
そんなことをしたら青峰君が壊れてしまう。
「テツ」
その言葉には意味が込められているんだろうか?
青峰君は僕に何を伝えようとしているんだろう。
僕はもう理解することが出来なくなっている。
だけど、求めてくれている。
バスケで必要としなくなった僕を求めてくれた。
それだけで、僕は。