きみの味

 そこにいるのは当然でしょ?
 横目でクロを見たら、大きな口でヤキソバパンを、ガブりと食い千切るみたいに食べた。モグモグとあまり噛まずに、胃に押し込むように食べるんだ。
 そんなに早食いしないでよ。
 俺はちまちまと作業みたいに食べる。美味しい? 美味しくない? どうでもいいや。
 でもさ、クロがさ、隣にいるだけで俺は食べていることを実感できる。もしもいなかったら、こんな食事をしたことさえ、忘れちゃうかもしれないんだ。
 味って不思議なもんだよね。クロが傍にいると、ふわり、ふわりと噛む度に知らせてくるんだから。なんでか、それを何度か繰り返すとお腹いっぱいっていうか、胸がいっぱいになってもういらなくなるんだ。そして、置いていたらクロが「ちゃんと食べねーと」って、言いながらも自分の口に入れる。
「おいしい?」って俺が聞くと、「旨い」っていうから、俺も美味しかったんだなって思う。
 少しずつ口に運んでいたら、ビニールをくしゃくしゃにした音に気付く。食べ終わったんだな。俺は箸を持ちあげるのが嫌になる。
「こっち、見ないでよ」と俺は困りながらクロに言う。
「いや。食べてる研磨可愛いから」クロは笑って、俺の頭を一度撫でる。
「クロがこっち見るから、食べたくなくなるんだ。あっち向いててよ」
「だって、暇なんだよ」
「早く食べるからでしょ」俺はクロに背を向ける。「あげる。もういらない」
 俺はクロに弁当を渡す。クロはそれを受け取った。
「半分しか食べてないじゃん」
「いらないから」
「じゃあさ」クロは言う。「研磨ちょっとこっち向いて」
 俺は「何?」と嫌々ながら振り向いた。
 すると、クロが箸を持って、俺に見せつけるように「研磨の箸なめちゃおうかな」と厭らしく言った。
「は?」俺は眉を眉間に寄せた。「絶対嫌」
 クロはわざと舌を出せる所まで出して、蛇じゃないのに、二度出し入れをして、俺の箸を上に上げて、下からゆっくり舐めようと近づけていく。
 俺は焦って、クロの胸の服を引っ張る。「やめてよね!」
「おっと」とクロは箸を落としそうになるのを、ぐっと掴んで「じゃあさ、食べる?」と言う。
「食べる……。もう最低。本当最低だ」
「聞きなれてますよ」クロは笑って、楽しんでいる。そして、「どうぞ?」と言って、俺の弁当箱のウインナーを刺して、俺の口の所に差し出す。
 俺は口を少しだけ開けると、クロ軽く押して、噛んだ。
「おいしい?」クロは聞く。
「おいしいに決まってんじゃん」と俺は怒った顔をしてモグモグとクロみたいな食べ方をして、飲み込んだ。
「俺がいないと研磨食べないから、心配」
 いないことなんかない癖によく言うよ。

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