振り返る(1)

 傷付いて、傷付けて、どっちも沢山されたし、したけれど、やっぱりそれは俺が勝手に翻弄されて、自分自身を見失っていたから、後から冷静に考えてみたら、これが俺? って見つめさせられるよね。
 こんな汚いやつだったんだって笑いたくなった。でもそれが人間なんだから仕方ないでしょとか、今更したことに後悔していたら沢山ありすぎて時間をとられて、もう何もする気がなくなりそう。
 あぁ、でも傷ついたときは少し綺麗なものを身に纏っていた気がするよ。今からも沢山傷ついていくので、完璧には汚れていないんだろうな。はっきりさせた方がいいのだろうけど。

「腕は縛らせてね。お前きっと暴れるから」と俺は仰向けになっている飛雄に言った。
 背中は白いシーツに身を任せている。これから汚れてしまうのに、こんなに白いのは勿体無い。それに飛雄に白は似合わない。寧ろ、俺の方が似合うじゃないかな? 試しに笑ってみる。ほら、ぴったしでしょ?
 飛雄は身を震わせた。嫌いなんだろう。こんな作った笑顔が。
 暴れても大丈夫なように、しっかりと縛る。紐を何重にも巻いて、縄みたいに。飛雄の両手を頭の上で抑える。ボタンが全部外されたシャツから肌かちらほら見える。俺は片手で片方ずつ開いて言った。「目隠しをしたら、意味がない気がしてね。やっぱり自分が何されてるのかよく頭に入れたほうがいい」
「分かってるつもりっス……」飛雄は今更のように言った。
「そうか。なら痛いのにも慣れたかな? もう少し、痛くしてもいい?」
「それは……」言葉を濁ます。
「嘘だよ。俺も毎回必死なんだよ。手加減する余裕なんてないし、お前なんかにするもんか」
 優しくなんかしてやるもんか、そう思った。
 飛雄は不安な顔をしていても、結局行為が始まろうとしたらそれを鎮めて落ち着きを取り戻す。目をつむり、呼吸を確かめるようにすると、再び目を開けるときには試合で見せるような自分を信じている顔をしている
 一緒なのかな。それと同じくらい大切なものならば俺は嬉しいのかな? こういう時に疑問を浮かべてしまったら、自分が平然といられなくなる。怖くなる。それがとても弱い気がして、悔しい。
 彼の上に乗る。ベッドは音をたてた。照明は明るく、シーツも白いけれど、今から俺がすることはとても汚いことだ。だから、もう一度白になった気で笑い顔をつくる。
 それは今から汚れていく合図にもなった。

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