進む3





 人に見つからない場所に隠れているのが得意だった。
 そういう所を見つけては点々と移動して、くつろぐのが日課で、何かするわけでもなくぼーっとしていたり寝ていたりをしていた。
 一人は好きだ。誰に繕うことも神経を尖らせている必要もない。
 偶に学校という集団で酔いそうになることがある。そこにいるだけでストレスを感じてしまうのだ。周りにいる人間がどうしようもなく不快で、ざわめきの声が気分を悪くする。だからよく逃げては一人になっていた。
 それは入学して間もなかったと思う。
 そういう風に逃げ出して、いつものように一人でいたときのことである。
 太陽が周りを白く見せるほど照らしているのを影に入ってぼーっと眺めていた時だった。
眺めていた景色はもう幾分と変わっていない。時がまるで止まっている様に感じていた。それは自分の中に築いていたこれからというものを壊して、思いもしない出来事を起こした。
ひょっこりと赤い頭がそこに現れたのである。
「お前さ、なんか見たことあると思ったらテニス部の仮入部でいたよな」
 まるで先ほどから見ていた様に発言した。眩しかった景色がブン太によって、閉ざされる。日光を気にしてないのか、そこに堂々と立っていた。自分には無理だなと思った。
「そういえばお前さんも見たことあるぜよ」
 赤い髪で尚且つ更に明るい性格。
「お前見た感じからやる気なさそうだったけど、やっぱそういうタイプだったんだな。俺も偶に抜けたりするけどさ、お前何組?」
「さぁ、どこかのぅ。探してみんしゃい」
「なんなんだよ、それ。お前見つけにくそう」
 そう言うと仁王の影に入り、横に座る。
 馴れ馴れしい性格だ。相手にするのが面倒だ。
「お前よくここいんの?」
「さぁ、俺は気まぐれじゃからのう」
「俺もここ良いと思ってたんだよな」
「そうなんか」
 返事にほとんど気は入っては無い。受け流すように喋った。
 適当なことばかり言っていた気がする。それなのにこの赤い髪は気
にせず話を掛けてくる。
 たわいの無い会話だ。
 どう考えても相手にされてなど無いと分かっているのに、めげないブン太に自分が痺れを切らした。
「俺と話して面白いか?」
「面白いぜ。今までいなかったし、こういう奴」
 笑顔でそう言う。こういう人間こそ、暗闇に落ちたら這い上がれないのだろうなと思った。正しくて綺麗なものしか自分には降りかからないと信じきっている。嘘やデタラメの世界に生きている自分が底から嘲笑っている気がした。
 少し興味が出た。
 こいつの三年間を客観視してみようと思った。
「お前さん名前は?」
「丸井ブン太。お前も名前くらいは本当のこと教えろよな」
「気付いとったんか」
「当たり前だろ」
「そうじゃのう、名前は次また俺を見つけたら教えてやるぜよ」
「持ち越しかよ…いいけどな。多分、すぐ見つけられるし」
 そう言うとブン太は立ち上がり、「またな」と笑って陽の光の中に戻って行った。簡単に懐に入り、出ることが出来る身軽な奴だなと思った。
 そういう人間こそ幾つもの人間を無意識に傷つけているのを本人は知るよしもない。

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