進む2





 外は春先なのでまだ寒い。夜は特に陽が当たらないので冬と同じぐらいの温度ではないのかと思う。
 電車の時刻を自宅で確認して、丁度いい時間に駅に着くように出た。田舎の駅のホームは風を凌げるようになどしていない。そんな所に待たせられるなんて絶対に嫌だった。
 暑いのも嫌いだが寒いのも嫌いだ。体温が奪われていく感じは自分を無にさせて生きた心地がしない。
 街に向かう電車は人がほとんど座っていなかった。当たり前だ。この時間はこちらに帰宅するのがほとんどで、街に向かう人などわざわざ田舎に用事があって来たか、遊びにきたかぐらいだろう。
 がらがらの車両の出口の近くの席にぼすんと勢いよく座った。二人用の席で人もいないので右側に堂々と荷物を置いて、左側の窓際に肘を乗せて足を組んで一息ついた。
 面倒くさい。内心はそれで一杯だ。今から一時間もこの電車に乗っていなければならない。乗り換えが無いだけマシだが面倒なことには変わりない。
 窓の先は山でトンネルを通る度に自分の顔が窓に反射して映った。面倒なのもあるがそれとはまた違う表情を浮かべていた。
 不安なのか、問われることを。
 こんな表情を皆の前で出していたらすぐにどうしたのかと聞かれてしまう。今のこの時間だけは本当の自分を出していたい。そうして我が身を維持しなければ上手く繕うなんて出来ない。
 ペテンは真実があるから嘘もあるわけで、真実がなければ嘘も端から存在しない。本当の自分があるから嘘をつくことが出来るのである。そう自覚しとかなければ混ざり合って混乱して、自分自身が分からなくなってしまう。
 行かないと得意な嘘を使って断れば良かったと内心思っている。
 そう思えたのは電話を切った後だったからで、電話の最中はブン太の勢いに押されてしまい、そんなことを考える前に切られてしまった。
 後からメールで断るという手段も有ったがもういいかとやけになって出てきた。
 後から冷静になってみるととんだ阿呆だ。自ら逃げた癖にその逃げた場所に戻ろうとしているのだから。しかもこんな間抜け面で。
 逃げたと思っているのは自分だけなのかもしれない。相手からしたらただ単に消えた程度で気にも止めていない可能性もある。そう有ればと願っているがそうであるわけがない。
 自分達はその他人というラインを越えてしまった。
 それは自分だけだったが、卒業間際にブン太を巻き添えにした。自分が積み重ねて秘めた想いを何もなしで終わらせたく無かった。
 一時間は長い。自分を見つめ直すには十分すぎる時間である。電車に乗って過去に戻っているようだ。

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