探る


 

 ほら丸井はそうやって逃げる。
 可笑しいぐらいに自分で挑発しておいて、いざ俺がそれに乗ってやると覚悟を決めたような顔を一度して、されるがままになる。
 だが体は俺に好きなように弄られても、心は一度だってこちらを見向きもせずに、俺が安易にいう安っぽい言葉を逃げるように無視をするのだ。頷いたりするわけでもないし、返事をするわけでもない。俺が独り言のように言っているだけだ。
 つまらない。今まで抱いてきた人間はこの言葉を聞かせると、照れたり、怒ったり、何かしら反応を見せてきたというのに、丸井は俺が発する言葉を耳に入れているのかどうかさえ怪しい反応だ。
「丸井?」
 なぜ無視をするのかを問うように名前を呼んだ。
「な・・・んだよ」
「なんだ。聞いとるんか」
「聞きたくなくたって聞こえんだよ。だまって続きしろよ」
「丸井が返事してくれんけ、続きができんのんじゃ」
「返事とかまじでどうでもいいから。いらねーだろ?そんなの」
「よくないじゃろ。それじゃ俺が丸井のこと犯しとるみたいじゃき」
 俺が丸井の後孔を優しくなぞると、丸井はじれったそうに睨みつける。
そういう顔は好きだ。感情が灯り、俺に押し付けて、俺にないものを増やしていくような。
「犯してんだよ。お前は」
 快感に耐えながら、俺の心の中に何かを留めさせようと、余裕があるフリをし、少し笑いながら丸井は言った。
 その笑みはぐしゃぐしゃとしているような、無理やり作ったものだとすぐに分かった。
「丸井は余裕がない癖に、あるように振舞うのが得意じゃね。負けず嫌いというか、愚かな奴がすることじゃな」
 丸井はもう一度笑う。
 丸井の怒りに触れないのが不思議だった。
愚かな人間だと認めていることが俺の中で滑稽で、壊してやろうかと思うほど、馬鹿馬鹿しくてこいつは一体何を求めているのかが分からず、気付いていたら自分が丸井を求めるように抱いていた。
 俺が丸井を求める必要など無いはずなのに、丸井が探しているものを俺が変わりに探しているようで、混乱する。
 果てた後にやっと自分を思いだし、小さなため息をそっとした。
 丸井は自分を覆うように手で顔を隠し、横に向いて寝ていた。
 その手をそっと俺はのける。
 開けてはいけないようなものを開ける気分で、少し鼓動が早くなった。
 その寝顔はやはり眉間に皺を寄せていて、寝てはいないのだろうと俺は思った。
「丸井」
 声を掛けてもその声は一人響くだけ。
 今度は丸井の胸に手を添えて、もう一度呼んだ。
「ブン太」
 触れていた先がドクドクと心音を早くする。言葉の返事がなくても、それが変わりに返事をしてくれている気分になり俺は話を続けた。
「俺はおまんが求めようとしているものを知りたい。どんなもんでも探してやりたいとおもっちょる。自分でもわからんが。なぁ、なんでじゃろ?」
 固く閉ざされていた瞳が、開かれることを拒むように僅かに開きはじめる。そして全てを開かれる前に丸井は言った。
「それを俺に聞くな、お前の考えることなんてお前だけしかわかんねーだろうが」
「じゃあ丸井、おまんが欲しいものは?」
「もう見つけてんだよ。でもなこういうことを続けるうちにそれがとても脆くてアホらしくていつ崩れるものか分からないと知ったときはもう必要ないと思った。だから、いらないんだよ。それは」
「丸井はさ、弱虫なんじゃね」
「ああ」
「俺もな、実は弱虫じゃけん」
 俺は丸井の温かいまだ先ほどの熱が覚めていない手を自分の脈立つ胸に当てた。
「弱虫同士、怖がりながらでもそれを探ってみようとは思わん?」
 丸井の中途半端な瞳が一度大きく見開かれると、一層に眉間に皺がより、何かを堪えるようにもう片方の手でシーツを握りしめていた。
 手に入れることを恐れている。
「俺は……きっとそれを無くしてしまう…」
「なら俺がまた見つけ出しちゃるよ」
 なぁ丸井、怯えているのを隠すのはやめにせんか?
 俺は僅かに震えている唇にキスをした。
 優しく伝えるように、安心させるようにすると、抱きしめてやった。丸井が先ほどまで一番不必要だったものだ。
 だが分かった。お前は欲しいくせにいらないと思って逃げていたことを。
 俺は自分らしくないが、ずっと抱きしめていてやりたいなと思った。






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