secret



 不意打ちにブン太のキスを奪った。
 ブン太は驚く素振りなど見せず、赤也の思うままに身を委ねる。上のシャツを脱がそうとするとブン太は自分でやるといい、赤也の手を止めた。
「お前がそんなに優しくやろうとすると、こっちが調子狂うんだよ」
 そうしてズボンも自分で脱ごうとした。
「待って」
 赤也はその手を止める。
「俺がやりますから」
 熱を籠った目をブン太に向ける。
五秒ほど視線を合せるとブン太は「仕方ねーな」とズボンから手を離した。
「どうした赤也?今日はそんなに優しくしたい気分なの?」
 赤也は何も言わない。
 ブン太の全てを脱がすと赤也は横に寝かせ、胸や腹にキスを落としていく。
 ブン太は過敏にそれに反応し体を震わせる。
「んっ……んっ……」
 口を手で覆い声を抑えるが、赤也が片手でそれをのけた。
「こんなことぐらいで声出したくねー」
 手を戻そうとするが赤也はそれをさせない。
「先輩。今日は全部我慢しなくていいから」
性器の所まで辿り着くとそれに一度キスをした。
 体が震える。
 赤也はそれを口に含むと舌で上下になぞる。
ちゅぱっ……
 そしてある程度性器を舐めると、次は優しくそれを手で扱きながら吸い始めた。
「はぁ…はぁ…」
 ブン太は精子を排出するのを必死に我慢し、息が苦しいようだ。
「出していいッスよ」
チュウッ
「んんッ!」
 赤也が強くそれを吸うと我慢できなくなったブン太は体を強く震わせる。
 赤也はそれを大事そうにゴクリと喉の奥を鳴らせた。
「馬鹿や…ろ……はぁ……はぁ…飲むな…よ…はぁ」
 ブン太は体に力が入らなくなり、寝そべったまま動かず呼吸をゆっくりと深く繰り返している。
 だが弱弱しく見える癖に本当は全く弱っていないのが分かった。
 一度果てたくらいでは体はまだ足りていないのだろう。再びブン太の性器をなぞるとまた上にあがる。
「赤也、もう入れれば?」
「今日、俺入れないッス」
 体が疼き、ブン太は赤也のズボンに手を掛けていたが、驚きで手が止まった。
「冗談だろ?」
 馬鹿にしたようにフッと笑うが、赤也の真面目な表情は変わらない。
「お前さ、今日変だぜ?」
「そうかもしれないスね」
「そうかもしんねー、じゃねーんだよ。言え。何があったか」
「先輩は俺に何も教えてくれねーのに?」
 何も教えてくれない癖に赤也のことを教えろというのは、理にかなっていない。
 だが、そんなことなど気にせず、ブン太は普段赤也のことを次々と聞きだす。聞きたいことは我慢せずに聞く人間だ。こちらが聞きだそうとすると全く教えてくれないというのに。
「お前は餓鬼だから早いんだよ。もう少し大人になったら教えてやる」
「大人って……何が大人なんスか。齢なんか一歳しか違わねー癖によくそんなことが言えるッスね」
 言葉が一つずつ重みを増やしていく。
 大人など年齢に達したからといってまだまだきちんとした大人だと言われるのには時間がかかる。
 ならばそれは時間によっては決められないものだ。
「お前は餓鬼だよ」
 ブン太は寝ていた体を起こし座る。ばつが悪そうに二、三回頭を荒く掻くと、赤也の胸に手を当てた
「もし俺が全てお前に伝えたりする。そうしたらお前、感情制限できるか?ココを抑えることができるか?」
「そんなの聞いてみなきゃわかんねーッスよ」
 ブン太の真っ直ぐな目を見ることが出来なくて、視線を下に落とした。
 自分の中のものがおじけついて何も言えなくなりそうだったからだ。
「それはただの好奇心だ。ココはまだ未発達なのにそんな大きなものを抱えることなんか出来ない」
「じゃあ、俺はいつになったら教えてもらえるんスか……」
「お前がココを自制できるようになったらな」
 年齢よりも中身を育てろと言っているのだろう。
 認められたい。だが心が切羽詰まって成長が出来ないのだ。ただ先を急いで追いつかない。余裕などそんなものは端からない。
「そんなの待ってらんねーよ。先輩すぐに俺の目の前から消えそうだっつーのに」
「それでも待て。それしかお前に出来ることはねーよ」
 胸に当てていた手が離された。その手には自分の心臓の音が伝わっていた。
自分の中の心臓がドクンドクンと脈立てているのを何もしなくても体全体からか聞こえる。
 ブン太の心臓の音は耳を澄ませても聞こえないというのに。
 そのままブン太は赤也の体を求めた。
ブン太に手を引かれ、ギシリとベッドが沈み、二人はそこで見つめ合いながら横になった。
見透かされている。何もかも。
そして誤魔化されている。
「ひゃっ!……あっ!……あっ…」
 心の置き場がなくてそれを誤魔化すようにブン太を突いた。
自分勝手にブン太のことなど何も考えず、心の闇を取り除きたい一心だった。
 最低だとは分かっていた。
 体が果てた時、闇は更に心を取り巻いていた。
 汗だらけになり、髪も乱れて静かに寝ているブン太の顔に自分の精液が掛かっていたのを手で纏った。
「こんなことしてーだけじゃねーのにな」
 酷いことばかりしている。
 それも感情が制限出来なくて、思い切りだ。
 最低だ。何回も思い知らされる。
 誰もそれを違うと教えてくれないまま、自分は間違いばかり起こしているのかもしれない。
 目を閉じた。その先には何も見えなくて闇だけだった。



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