リセット

 春になった。いや、とっくの昔から春にはなっていたけれど、まだ寒くて実感が湧いていなかっただけだ。
 桜が満開で綺麗だなーっと俺は上を見上げる。それに比べ先輩は興味がなさそうに座っているだけで、アンタがここに来たいって言ったからここに来たんでしょと言うと、ただ単に足が疲れただけと可愛げのないことを貫かした。
 ベンチに座り、何をするわけでもなくだらだらとする。
 公園には子供も犬の散歩さえいない。
 これだから最近の子供はと言うと、テレビゲームばっかしているお前に言われたくないと踵を返された。俺は、テレビゲームでも養われることがあるんですよと、一生懸命に説明するが先輩は、はいはいと聞く耳を持たない。
 先輩は何も変わっていない。
 昨日卒業して、今日で変わるわけないのだろうと思うけれど、やっぱり何かが変わりそうな気がした。
本当は変わっているのだろうなとも思う。
少しずつ僅かに。それが細かすぎて俺は気付いていないのだろう。それに加えきっと俺も変わっているのだろうから、自分では分からないもんだ。
 そして今、先輩はここにいる。それが俺を錯覚させている一つだった。まるで明日も隣にいるようにそこが居るべき場所のように、普段と何一つ変わってなくて、同じ様に座って手を伸ばせば届く距離にいる。
 先輩は地面に落ちている桜を足で集め始める。
「何してんスか?」
「いや、なんか落ちつかねーから」
 それは次の世界が待ち遠しいからか、それとも俺と一緒にいることだろうか。
淡々と桜を集めると、先輩はそれを思い切り遠くに蹴った。折角集めた桜が元のようにバラバラと落ちて意味のないことになった。
「勿体ねーな」
「勿体なくなんかねーよ。元に戻っただけで」
「そっかな。俺は勿体ねーと思うけど」
「なんで?」
「なんでって、また作らないといけないじゃん」
 そんな幼稚な子供が質問を繰り返すみたいに、対して質問の結果には興味がない癖に俺に聞いた。
「……もう作らなくてもいい。ごめんな、赤也」
 何を急に謝るんだろうか。薄笑いをしながら、なんのことか考えてみる。一番に触れたくない部分ばかりが頭によぎり、
それだと仮定して考えてみる。
頭の中で何度も原因を探してみるけれど、見あたるはずがない。俺には多分、そういうものはなかった。
 一番最初に思い浮かんだ時効だけは信じたくなくて、だけれどもそれ以外が出てこない。
 アンタは普段だったら、躊躇なく傷つける癖に、なんで俺の時だけそうやって遠まわしにするんだよ。
 まるでお前だけは今までの人間とは違ったみたいに、こんな所まで連れ出してさ、結局終わってしまえば全部一緒だというのに、特別でもない癖に。
 元に戻ることなんて出来るわけがない。それはアンタが望んでいるだけで、俺は。
「リセットしようぜ」
 先輩はベンチから立っていて、足が痛いとか言っていた癖に全然そういう風には見えなくて、きっとこんなつまらないことを言う為にわざわざ舞台を用意したんだ。
 背を向けて、どんな顔をしているのか分からない。
 思い切り歪んでいればいいと思う自分がいる。
「またね」
 歩き出していく先輩に言えた言葉はそれだけで、先輩は俺に掌だけを向け挨拶した。
 そのまたはいつになるのだろうな。
 変わってしまったことに、落ち込むよりも、違う風に変えれなかった自分が情けなくて、一人俺は桜を集めた。
 ある程度集めると俺はその場から出ていった。
 桜が散らなかったらいいのにと無理な願いを残しながら。






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