「馬鹿だな、先輩」
 寝ている赤くなったブン太の頬にキスをする。
きっと起きる頃にはそんな記憶さえ無くて、赤也が来たことも知らないのだろうと思う。
頬はとても熱い、だけれども手は冷たい。
 おかしいなと思うけれど、これが病人の体温だ。
 汗ばんだ髪をぐしゃりと掴んでみる。熱が通って温かい、そして離すとさらりと落ち、髪は冷たく落ちていく、熱が吸いとられていったかのように。
 ブン太の額に自分の額を合せた。温かいというよりは熱い熱が赤也の額に入っていくような気がした。
「その熱も、辛さも俺に入れてしまえばいいんだよ。そうすれば先輩はもっと……」
 口が閉じてしまった。もっと、自分らしく?いや、違う。
 もっとどうしたいのだろう?
「……本当に俺、分かってないな」
 そう言って額を離そうとした時、赤也の頭を冷たい手が包んだ
「馬鹿。教えて無いのに分かるわけねーだろ」
 そう言っていつも通り頭をクシャクシャとするとその手を離した。
 赤也はその手を握る。
 そして冷たい手を先ほど吸いとった熱で暖めるように、祈るように額をつけた。
「そんな冷たい手で、よくそんなことが言えるな。病気の時ぐらい弱音な部分見せつけなよ。俺はそんな先輩を否定なんかしないからさ。それにこんな時ぐらいしか、俺は傍に居られないんだから、ゆっくり休みなよ」
 力尽きて再び瞳を閉じたブン太の手を、赤也は温かくなるまでずっと離さなかった。




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